はじめに、土地や建物を購入または相続した場合、昔は、和紙などで作られた「登記済権利証」(法務局の印鑑が押されたもの)が発行されていましたが、数年前から、この登記済権利証に代わって「登記識別情報」なるものが交付されるようになりました。
このふたつは、見た目も手続上の取り扱いも異なりますが、どちらもいわゆる権利証として不動産の所有者本人であることを確認するための書面で、昔からお持ちの古い登記済権利証も有効なものとして使用することができます。ただし、再発行ができないことになっていますので、失くさないように保管して頂く必要があります。
なお、売却もしくは相続登記等が完了した際に、前の所有者に関する権利証については、ごく一部の例外を除き今後使用することはありませんので、記念品として保管されるか廃棄されるか、皆様のお気持ち次第で取り扱って頂いて構いません。
それでは、この「登記済権利証」や「登記識別情報」を何らかの理由で紛失した場合、自分の権利を守るためには、どのような対応をとるべきでしょうか。
権利証を紛失したからといってその権利を失うことにはなりませんし、登記名義の移転や担保設定等の登記手続きには、一般的に登記済権利証(登記識別情報)に加えて印鑑証明書(取得から3ヶ月以内のもの)+実印の押印が必要となり、さらに司法書士が登記手続きに関与する場合には、その職責上、本人であることの確認と登記内容の確認を必ず行いますので、不正な登記が簡単にできる訳ではありません。
しかし、紛失の理由が盗難等で、不正な登記が行われるおそれがある場合には、まず、管轄法務局へ「不正登記防止の申立」を行います。この制度は、法務局が直接的に権利の移転等を禁止するものではありませんが、申立後3ヶ月以内に何らかの登記が申請されると、申し立てをした本人に通知されますので、不正な登記に対処することができます。
それと同時に印鑑カードや実印がいつもの保管場所にあるかを確認し、印鑑証明書が不正に取得されていないか、役所の住民課に直接問い合わせて確認します。実印がなくなっている場合には、改印の手続きもすべきでしょう。
また、「登記識別情報」の用紙には、英数字が記載されています。その情報を法務局に伝えることによって所有者であることが確認できるパスワードのようなものです。その用紙が盗まれた場合や、登記識別情報の番号を盗み見られたおそれがある場合には、管轄法務局へ登記識別情報の失効の申出をすることによって使用できなくすることが可能です。もちろん所有者本人も使用することができなくなります。
このような盗難等の理由によるものではなく、登記済権利証(登記識別情報)をいつの間にか失くしてしまったような場合については、そのまま放置するのか、前述の盗難等と同様の対応をとるのか、またはその中間的な対応をとるのかをご本人の希望に沿って個別に判断することになりますので、お近くの司法書士や法務局にご相談下さい。
権利証がなくても、費用がかかる場合はありますが、司法書士による面談または法務局からの事前通知制度による本人確認によって、登記手続を行うことができます。
<今回のレポート担当>
酒井司法書士事務所(福岡市中央区)
司法書士 酒井 謙次 先生